大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和27年(う)192号 判決

原審が証拠として採用した鑑定書の名義人たる境税関支署職員高松一が本件犯則事件調査担当職員の一員であることは、所論のとおりである。而して、同人は大蔵事務官として本件犯則嫌疑者中一部の者に対する取調に当ると共に、大蔵事務官松浦英彰の嘱託に基き、大蔵技官たる資格で本件犯罪貨物の「原価」を鑑定したものであることは、これ亦記録上明白であるが、かかる権限は、本来法令によつて附与されたものであるから、本件鑑定書が大蔵技官たる高松一の職務上作成に係るものであることは、更に贅言を要しない。されば、同人が大蔵事務官及び大蔵技官という二重の資格を兼ねているということを捉えて、同人に鑑定人たる資格がないとの弁護人の所論は独自の見解たるに過ぎないといわざるを得ない。苟くも、嘱託に係る鑑定事項につき、同人が特別の知識、経験を有している限り、同人はこれが鑑定能力を具備しているものというを妨げない。本件においては、同人の鑑定能力の有無につき、毫も疑を挿むに足る根拠がないのみか、却つて、諸般の証拠に照し、その鑑定の結果が正鵠であることが認められるから、本件鑑定書は単なる捜査報告書にしか過ぎず、鑑定書としての適性を有していないということを前提とする弁護人の所論は到底是認し難い。本件犯罪貨物の原価を認定するにつき、右鑑定書を証拠の一として採用した原判決には、所論の如き違法或いは事実の誤認と認めるべき点を発見することができないから、論旨は採用することができない。

第二点(原判示第一の(二)の事実中、犯罪貨物の「原価」に関する点につき、原判決には事実の誤認があると主張する点)について、

原審公判審理の際、被告人は所論摘録のような弁解をして居り、山口景朝の司法警察員に対する自首調書中所論摘録のような供述記載部分があり、又、当審証人張再鳳の証言中にも、被告人の右弁解にやや符合するが如き供述部分があるけれども、本来、旧関税法にいわゆる犯罪貨物の「原価」は、固よりその物の具体的取引価格とはその観念を異にするが、又他面において、一般経済界における通俗の意味の「原価」ともその観念を異にする。即ち、ここにいわゆる犯罪貨物の「原価」とは、輸出貨物については輸出港において、又、輸入貨物については輸入港において、それぞれ当該貨物と同種、同量の物の全体を通常卸売の方法により、包括的に売捌き得る業態における一般的価格を指称するものと解すべきものであることは、犯罪貨物の価値の保存を許さないという関税法の趣旨及び規定の内容に鑑み、自ら明らかであるということができる。

本件についてこれをみるに、本件塩すけそうたら子が朝鮮元山において果して幾何の金額の代金を以て購入されたものであるとしても、右代金額は、いわゆる「原価」の確定につき何等の関係もないものといわなければならない。弁護人の所論は、旧関税法にいわゆる犯罪貨物の「原価」に関する解釈につき、独自の見解に立脚するものたるに過ぎず、原判決には、所論の如き事実の誤認があるものということはできないから、論旨は採用の限りでない。

(裁判長判事 岡田建治 判事 組原政男 判事 黒川四海)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!